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広島高等裁判所岡山支部 昭和49年(う)85号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人小倉金吾の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は原判決の量刑不当を主張し、再度刑の執行を猶予されたい、というにある。

よつて検討するに、本件は原判示のとおり常習暴行および酒気帯び運転の事実であつて犯情必らずしも軽微とはいえないこと、被告人は傷害・暴行等の粗暴な前科を含む多数の前科があり、殊に昭和四八年七月二日岡山地方裁判所において覚せい剤取締法違反罪により懲役一年、三年間刑執行猶予の判決を受け本件はその猶予期間中の犯行であること、その他被告人の経歴、行状等記録によつてうかがえる各般の情状を総合すると、被告人を懲役六月に処した原判決の量刑はまことにやむをえないものと認められる。所論指摘の被告人に有利な諸事情のほか、原判示第一の原因となつた接触事故につき弁償していることなどを十分参酌しても、所論のように再度刑の執行を猶予するまでの情状があるとはいいがたい。原判決には量刑不当の違法はなく、論旨は理由がない。

なお、原判決第二の酒気帯び運転の事実につき、原判決は被告人の自白のほかに補強証拠として「司法巡査作成の酒気帯び鑑識カード」を挙げみるので、自動車運転の事実を直接補強する証拠を掲げていないことは原判決書に徴し明白である。しかし、酒気帯び鑑識カードは、警察官が道路交通法六五条一項の酒気帯び運転禁止の規定に違反して車両等を運転するおそれがあると認めたとき、被検者の呼気を風船に吹き込ませて採取したうえ検査した結果を明らかにするものである(同法六七条二項、同法施行令二二六条の二)から、右検査が行なわれその結果が明らかにされた前記鑑識カードが存在することによつて、自動車運転の事実に関する被告人の自白は間接に補強されているものと解せられる。従つて、原判示第二の事実のうち自動車運転の事実を被告人の自白のみによつて認めたとはいえず、原判決に訴訟手続の法令に違背はないと認める。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(干場義秋 谷口貞 大野孝英)

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